芦別物語

小指の先が!

あまり気分のよいことではないので、詳しく書かない。
3週間前の日曜日、いつものように料理中。
今日はハヤシライスだ。とばかりに玉ねぎを切る。1個目軽いかるい。2個目、ふと考え事をした。心が離れた。
その直後、悲鳴を上げた。
奥様が飛んできた。おろおろする。急いで絆創膏を貼ろうとするが血で滑りうまくいかない。
心を集中して自分の右手一本で包帯をくるくる撒きつけていく。
奥様には救急車を指示。早く来てよね。
根元を固く縛る。これで少し落ち着く。短パンだったので着替えようと奮闘し始めると、奥様から怒られた。

救急車が下に着いた。夕方6時は皆が夕食前で揃っているはず。
しばらく救急車は検査のために敷地内に止まる。赤色灯ワンワン回っている。
これでしばらくはマンション一の有名人じゃな、と思う。

血圧測定のベルトを何度腕に巻きつけても、上腕2頭筋がふくれてはね返す。
救急隊員は私がふざけて外しているのかと何度も覗き込む。笑ってしまう。

病院に着いた。診療室の扉が外に向かって全開し、飛行機の格納庫に吸い込まれていくみたい。
切断された先端は取ってしまいますか?と若い医者が聞く。
生えてくるはずも無いので、絶対繋ぎとめてくれと頼む。

医者は暫らく考えてからやるだけやってみましょう、と言う。
黒い糸で4針縫われた。ちくちく。時間がどんどん経っていく。
待合で待つ奥様の顔が浮かぶ。

指先は4mm切断したが僅か周囲3mmの皮膚だけで繋がった。

翌日から外科に通う。短くなった小指の長さがどれだけ回復するか、
それが関心ごとの全て。医者は曖昧に返事する。
心を込めて、指先に集中する。パワーを送り込む。ビタミンCを大量に執った。
これは尊敬するワイル博士の本に書いてあったから。

2週間後に抜糸。
残った皮膚と肉は薄くなり剥がれ落ちた。指は短くなって残った。
その頃では病院に通う私には、それはもうどちらでも良いことになっていった。

待合室には私の数十倍もひどいケガで通う人で混み合い、悲しみが床に溢れていた。
もう放っておこう、自分の指の事は、と思えるようになった。

その後の一週間で爆発的に回復。毎日0.3mmずつ指は伸び続け、切れた箇所との
境目も消え、ほぼ前と同じに戻った!
神経も全く通わなかったのが、今じゃ指先先端まで70%位回復。

いつものレトロな床屋さんに聞くと、偶然だが全く同じケガをして、2年後に完全回復したと教えて戴く。

そう、指は生えるのだ。少なくとも指と肉と爪は。
ありがとう原始の記憶。生きているんだな、と感じる。

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