芦別物語

ドッペルゲンガーは紙飛行機を折るか

目の前に二つの案がある。
一つは私が作ったもの。
高性能ジェット戦闘機のような設計図だ。
高機能、高効率、最新の構造力学、優しい人間工学
誇らしく今にも飛び上がりそうだ。

もう一つは客が持ってきた別案。
弱弱しく、イメージも弱く、構造も成立せず、
法規も理解していない。無知ゆえの自由さに溢れていた。
まるで紙でしか成立しえない建物。
紙飛行機のデザインだった。

それを見ていて不思議な感覚に捕らわれた。
若い頃の自分のスケッチを見ていた。
恐れを知らず、現実も知らず、構造も法規にも頓着せず、
ひたすら原始的な感情だけで作っていた頃を。

人は大人になる。多くを学び、社会で叩かれる。
そして鋼鉄のような意志と、知識で固めたプロが出来上がる。

不思議だった。
もし許されれば、赤い鉛筆を持って真っ赤に直した事だろう。
愛情を持って。
幼く無知だけれど、ほっておけない物を感じていた。

結局、客は言った。こちらにします。
紙飛行機を指差していた。

唖然とした。でも心の中では遠い遥かな声が聞こえていた。

寝苦しい夜、夢を見た。
不思議な小さな部屋に通された。
幼いデザインの模様で埋められた6畳くらいの
窓も無い部屋だった。
片側に大きな鏡がかけてあった。

私一人が鏡に向かって立っていた。
すると、鏡の中に、私の後ろの位置に人が立った。
弱弱しい、すねたような成長不良の若者の姿だった。
鏡越しに目を見開き瞬きもせずに私を見つめている。

背筋が寒くなった。これは私だ。直感的に分かった。
中途半端なデザインの服を着た若者の目を震えながら
凝視した。そして彼は消えていった。
勿論後ろを見ても、この部屋には私しかいなかった。

しばらくして反対側の扉が開き、少女が入ってきた。
何も言わずに白いスカートをひるがえして優しそうな笑みを
浮かべただけで去っていった。

沈黙・・。その後背後の空気が変わった。
あの若い男が立っていた。
鳥肌が立つ。
声も出ない。じっとこちらを見つめ続けている。
一体、何を言いたいんだ。叫びそうになる。
長い事閉じ込められた者の怨恨を漂わせている。

そしてかれは動くことなくその場から消えた。
ドアを開けて外へ出た。
風が吹いていた。紙飛行機のことをぼんやり考えていた。

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